『うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった』
本を読みました。
『うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった』藤川徳美著
わたしは以前、『食事でよくなる! 子供の発達障害』(ともだかずこ著)の感想をアップしました。その本の監修者が今回の本の著者、藤川徳美氏です。
藤川徳美氏は、病院に勤務しながら、うつ病の薬理・画像研究やMRIを用いた老年期うつ病研究を行い、老年発症のうつ病には微小脳梗塞が多いことを世界に先駆けて発見するなど研究者としても活躍していました。
現在は、「ふじかわ心療内科クリニック」の院長として、精神疾患等に対して多面的な治療法を採用しながら治療にあたっています。
『食事でよくなる! 子供の発達障害』の感想でも書きましたが、子どもの発達の偏りや心の状態を見るときにに、全ての基礎になる体の健康状態についてはどうなのかという視点をつい見落としているとことに気づかされました。
もちろんわたしにしても、体の健康状態を全く無視しているわけではなく、生活リズムを整えることや十分な睡眠の確保、適度な運動などの大切さはよく理解しているつもりでした。けれども、栄養のことになると、偏りなく何でも食べなくてはだめだという程度の大雑把な理解しかありませんでした。
それに対して著者(藤川徳美氏)の方法は、この栄養の問題を科学的に追求し、神経伝達物質との関係などについての知見を積み上げ、精神疾患や発達障害に現れる症状との関係を解き明かしていこうとするものだと思います。このような栄養についての学問的な方法は、従来の栄養学ではなく分子栄養学というのだそうです。
著者は、最近医療の世界でよく使われるようになった「エビデンス」は、科学とは無縁だと主張しています。臨床医学のエビデンスとは、症状と治療法の有効性の「相関関係」ではあるかもしれないが、原因と結果の「因果関係」ではないのだから、それは非科学だと言うのです。
わたしもDSM-5の診断法などを見ていて、状況証拠をいくつかそろえて診断をしているんだなと常々思っていました。これは、原因から病名を決めているのではありません。なので、診断を聞いても原因は分かりません。
わたしはリウマチの持病がありますが、リウマチも原因が分からないので、主治医は治ったのではなくて、寛解の状態だと説明してくれます。
エビデンスを重視する現在の医療に対して著者は、科学といえるのは「基礎医学」や「分子栄養学」なのだから、それらの科学的知見と患者の状態との間に「因果関係」を見つけ出すことによって、科学的に正しい治療ができれば病気は治すことができると言います。
原因と症状との科学的な因果関係のなかでこの本で特に強調されているのが、栄養と精神疾患や発達障害との関係です。多くの症例で糖質過多と鉄やタンパク質の不足という質的栄養失調が強く影響しているということです。著者は、そのメカニズムを科学的に説明しています。
紹介されている症例によれば、栄養の改善によって、抗うつ薬や向精神薬、精神刺激薬などの量を減らしていったり、中止したりすることができるようです。もし、薬を全て中止できたのならその患者の精神疾患や発達障害は質的栄養失調が原因だったといえるかもしれません。
新薬の開発もエビデンスベース(これは非科学である)なので、原因に迫り完治を目指すのではなく、症状の軽減、寛解を目指すものになってしまっていると言います。そしてそういう研究にお金が集まる構造になっているのも問題だと言います。
科学的に原因を究明し患者の症状との因果関係を見つけ出すという発想は今の医療現場にはまだまだ希薄なので、今後は医療のパラダイムシフトが必要だと言っています。しかし、そういう発想ができる医者が今後は患者から信頼され生き残っていくだろうとも。